「宮本から君へ」真利子哲也
真利子哲也監督は「ディストラクション·ベイビーズ」でも若者たちのやり場のない暴力そのものを描いていた。この映画もまた直情的で単純で真っ直ぐな心情の恋と暴力を描いている。
「ディストラクション・ベイビーズ」レビュー
弱々しい印象のある池松壮亮に「中野靖子は俺が守る」と蒼井優演じる女の前で言わせておいて、肝心なときにイビキをかいて寝てるだけで、何一つ守れなかった不甲斐ない状況に追い込む。誇りもなにもない男としてズタボロな情けなさ。しかも敵は圧倒的な体格と強さを持つ理不尽なまでの体力差。それでも真っ直ぐにぶつかっていって、前歯3本折られ、ボゴボコにやられる始末。女にも「そんなこと頼んじゃいない。自分のためにやってるだけでしょ」とボロクソ。復讐はいつでも自己目的化するもの。もはや女のためではなく自分を変えるために、何度も相手に向かっていく宮本。そんな男のバカみたいな直情的な映画だ。新井英樹の漫画が原作だ。
蒼井優が男運のない女を体当たりで演じていて気持ちがいい。暴力的でろくでもない男を惹き付けてしまう女。井浦新もまた、金ばかりせびるチンピラ風元カレを演じていてハマっていた。敵役の一ノ瀬ワタルの不気味さもいい。その父親役のピエール瀧の迫力も佐藤二朗などおじさんたちのラガー仲間の取り巻きも体育会的な雰囲気を上手く出している。
エンディングテーマの宮本浩次の真っ直ぐな歌声は映画とマッチしていていい。
不器用な暴力を徹底して描く真利子哲也は、どのように進化していくのだろうか気になる監督だ。2019年評判になった映画だけのことはある。
2019年製作/129分/R15+/日本
配給:スターサンズ、KADOKAWA
監督:真利子哲也
原作:新井英樹
脚本:真利子哲也 港岳彦
撮影:四宮秀俊
照明:金子康博
音楽:池永正二
音楽プロデューサー:齋見泰正
主題歌:宮本浩次
キャスト:池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生、星田英利、古舘寛治、ピエール瀧、佐藤二朗、松山ケンイチ
☆☆☆☆4
(ミ)
「ディストラクション・ベイビーズ」レビュー
弱々しい印象のある池松壮亮に「中野靖子は俺が守る」と蒼井優演じる女の前で言わせておいて、肝心なときにイビキをかいて寝てるだけで、何一つ守れなかった不甲斐ない状況に追い込む。誇りもなにもない男としてズタボロな情けなさ。しかも敵は圧倒的な体格と強さを持つ理不尽なまでの体力差。それでも真っ直ぐにぶつかっていって、前歯3本折られ、ボゴボコにやられる始末。女にも「そんなこと頼んじゃいない。自分のためにやってるだけでしょ」とボロクソ。復讐はいつでも自己目的化するもの。もはや女のためではなく自分を変えるために、何度も相手に向かっていく宮本。そんな男のバカみたいな直情的な映画だ。新井英樹の漫画が原作だ。
蒼井優が男運のない女を体当たりで演じていて気持ちがいい。暴力的でろくでもない男を惹き付けてしまう女。井浦新もまた、金ばかりせびるチンピラ風元カレを演じていてハマっていた。敵役の一ノ瀬ワタルの不気味さもいい。その父親役のピエール瀧の迫力も佐藤二朗などおじさんたちのラガー仲間の取り巻きも体育会的な雰囲気を上手く出している。
エンディングテーマの宮本浩次の真っ直ぐな歌声は映画とマッチしていていい。
不器用な暴力を徹底して描く真利子哲也は、どのように進化していくのだろうか気になる監督だ。2019年評判になった映画だけのことはある。
2019年製作/129分/R15+/日本
配給:スターサンズ、KADOKAWA
監督:真利子哲也
原作:新井英樹
脚本:真利子哲也 港岳彦
撮影:四宮秀俊
照明:金子康博
音楽:池永正二
音楽プロデューサー:齋見泰正
主題歌:宮本浩次
キャスト:池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生、星田英利、古舘寛治、ピエール瀧、佐藤二朗、松山ケンイチ
☆☆☆☆4
(ミ)
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「糸」瀬々敬久
瀬々敬久監督が王道のすれ違い恋愛映画を撮った。これまで不穏な空気が漂う人間の孤独や暴力を描く犯罪人間ドラマの映画を得意としてきた瀬々監督がめずらしく恋愛映画である。それにしても豪華キャストである。菅田将暉と小松菜奈がいい。榮倉奈々がいい。倍賞美津子がいい。斎藤工も出ているし、成田凌も二階堂ふみも出ている。中島みゆきの名曲に乗せて、すれ違う人間のドラマ、運命の糸というテーマが、しっかりとまとまった見ごたえのある映画になっている。
恋愛映画の基本は、枷とすれ違いである。身分の枷、戦争の枷、病気の枷、結婚という制度や世間体や社会の枷。様々な制約=枷が二人の愛を阻む。そして時代や時間がさらに二人の出会いを阻み、なかなか結ばれぬ恋は人々をハラハラさせる。待ち合わせ場所に来ない、ちょっとしたアクシデントですれ違う。運命のズレ。そして死。時に蘇えりや幽霊のような時間の限界を超えて、SF的ファンタジーとして出会う恋愛映画もある。しかし、現代において身分や戦争や社会の枷はなくなり、せいぜい病気や死が枷として使われることが多くなった。さらに携帯電話の発達が、すれ違いを成立させられなくなった。電話やメールでいつでも連絡が取れ、出会える時代になった。携帯を失くすとか、電源を入れないとか、様々な小細工を使わなければ、すれ違いのドラマは作りづらくなった。だから恋愛映画は現代においては難しい。SF的なものか、病気ものか、軽いタッチのものしか作れなくなった。
この時代ですれ違い恋愛を描くには、携帯やスマホで連絡を取らないようにするしかない。この映画の二人は、出会いと別れに運命を感じる二人なので、別れる時も連絡先を交換しないという禁じ手を使っている。会う時はいつか会える。会えなければ、それもまた運命だ。そんな割り切りが二人にはある。だから、タイミングがすれ違う男女のもどかしさが、それほど不自然ではなく描ける。それぞれの人生は、必死で、懸命で、誠実なため、見ていて共感できる。出会うためには、それぞれがしっかりと自分たちの人生を受け止める必要があった。それで、出会えなかったとしても、それもまた人生だ。そんな運命をしっかりと受け止めて生きる人間ドラマになっている。
榮倉奈々が子供に伝えた「泣いている人がいたら、抱きしめてあげなさい。そんな人になりなさい。」という教えがいい。そばに泣いてる人がいれば、声をかけ、抱きしめてあげること、そんな大切な優しさが心に沁みる。小松菜奈がシンガポールでかつ丼を食べる場面が素晴らしい。食べることが生きることと密接に繋がっている。中島みゆきの「ファイト」もまた効果的に使われている(最近のNHKドラマ「不要不急の銀河」又吉直樹脚本でも中島みゆきの歌「ファイト」が使われていた)。やはり中島みゆきの歌には歌詞の力があり、ドラマがあるからなのだろう。
2020年製作/130分/G/日本
配給:東宝
監督:瀬々敬久
原案:平野隆
脚本:林民夫
企画プロデュース:平野隆
モチーフ曲「糸」作詞・作曲:中島みゆき
音楽:亀田誠治
主題歌:中島みゆき
キャスト:菅田将暉、小松菜奈、山本美月、高杉真宙、馬場ふみか、倍賞美津子、永島敏行、竹原ピストル、二階堂ふみ、松重豊、田中美佐子、山口紗弥加、成田凌、斎藤工、榮倉奈々、石崎ひゅーい、片寄涼太
☆☆☆☆4
(イ)
恋愛映画の基本は、枷とすれ違いである。身分の枷、戦争の枷、病気の枷、結婚という制度や世間体や社会の枷。様々な制約=枷が二人の愛を阻む。そして時代や時間がさらに二人の出会いを阻み、なかなか結ばれぬ恋は人々をハラハラさせる。待ち合わせ場所に来ない、ちょっとしたアクシデントですれ違う。運命のズレ。そして死。時に蘇えりや幽霊のような時間の限界を超えて、SF的ファンタジーとして出会う恋愛映画もある。しかし、現代において身分や戦争や社会の枷はなくなり、せいぜい病気や死が枷として使われることが多くなった。さらに携帯電話の発達が、すれ違いを成立させられなくなった。電話やメールでいつでも連絡が取れ、出会える時代になった。携帯を失くすとか、電源を入れないとか、様々な小細工を使わなければ、すれ違いのドラマは作りづらくなった。だから恋愛映画は現代においては難しい。SF的なものか、病気ものか、軽いタッチのものしか作れなくなった。
この時代ですれ違い恋愛を描くには、携帯やスマホで連絡を取らないようにするしかない。この映画の二人は、出会いと別れに運命を感じる二人なので、別れる時も連絡先を交換しないという禁じ手を使っている。会う時はいつか会える。会えなければ、それもまた運命だ。そんな割り切りが二人にはある。だから、タイミングがすれ違う男女のもどかしさが、それほど不自然ではなく描ける。それぞれの人生は、必死で、懸命で、誠実なため、見ていて共感できる。出会うためには、それぞれがしっかりと自分たちの人生を受け止める必要があった。それで、出会えなかったとしても、それもまた人生だ。そんな運命をしっかりと受け止めて生きる人間ドラマになっている。
榮倉奈々が子供に伝えた「泣いている人がいたら、抱きしめてあげなさい。そんな人になりなさい。」という教えがいい。そばに泣いてる人がいれば、声をかけ、抱きしめてあげること、そんな大切な優しさが心に沁みる。小松菜奈がシンガポールでかつ丼を食べる場面が素晴らしい。食べることが生きることと密接に繋がっている。中島みゆきの「ファイト」もまた効果的に使われている(最近のNHKドラマ「不要不急の銀河」又吉直樹脚本でも中島みゆきの歌「ファイト」が使われていた)。やはり中島みゆきの歌には歌詞の力があり、ドラマがあるからなのだろう。
2020年製作/130分/G/日本
配給:東宝
監督:瀬々敬久
原案:平野隆
脚本:林民夫
企画プロデュース:平野隆
モチーフ曲「糸」作詞・作曲:中島みゆき
音楽:亀田誠治
主題歌:中島みゆき
キャスト:菅田将暉、小松菜奈、山本美月、高杉真宙、馬場ふみか、倍賞美津子、永島敏行、竹原ピストル、二階堂ふみ、松重豊、田中美佐子、山口紗弥加、成田凌、斎藤工、榮倉奈々、石崎ひゅーい、片寄涼太
☆☆☆☆4
(イ)
「人生フルーツ」伏原健之
去年からずっと話題だった「人生フルーツ」をやっと見た。日本映画専門チャンネルでの放送録画だ。ここ数年、立て続けにドキュメンタリーの秀作を発表し続け、テレビドキュメンタリーから映画館での上映へ、という流れを実現させた東海テレビの作品。一度映画館で観ようと思ったら、行列ができていて、入れなかった経験がある。年配のお客さんがビッシリだった。ロングラン上映も続いていたのだが、上映時間がうまく合わず、家での視聴となった。おかげで、夫婦一緒に見れたのは良かった。
なるほど。被写体が魅力的なご夫婦だ。このドキュメンタリーがここまで人気となったのは、このご夫婦の魅力に尽きる。名古屋郊外のニュータウンを設計した建築家、津端修一さん(90歳)と、その奥様、津端英子さん(87歳)。お二人の生き方、その人柄、お二人ともいい笑顔だ。人生を自分たちなりに、ゆっくりと愉しもうとする姿。数々のフルーツに野菜の自家菜園。自ら植えた雑木林と二人の家。菜園の手作りのプレート、自家製燻製に、鳥の水飲み場まで、スローライフそのものの二人の暮らし。
何度か繰り返される樹木希林のナレーション、「風が吹けば、枯葉が落ちる。枯葉が落ちれば、土が肥える。土が肥えれば、果実が実る。こつこつ、ゆっくり。人生フルーツ」という言葉にある通り、二人の暮らしは、「こつこと、ゆっくり」と、時をかさねる。枯葉を堆肥にし、畑にまき、収穫の時を待つ。津端修一さんが作る可愛らしい黄色いプレートや旗、飛行機の風車や夫婦の似顔絵など、細部が人生の愉しみに満ちている。ゆっくりと季節がめぐり、野菜やフルーツの収穫後は丁寧な作業を経て、二人のご馳走となる。障子の張替えや、孫のためのドールハウス作りなど、出来ることはみんな自分たちでやる。顔なじみの八百屋さんや魚屋さんなどマメにハガキを書き、信用したものだけを買う。
ナレーションが少なく、構成も見事だ。彼らの暮らしに寄り添うように、カメラはじっと静かに二人を見つめ続ける。娘さんや孫など二人以外は、一切登場させない(孫は声のみ出演)。近所の人がちょこっと出てくる程度だ。お金をかけたものではない贅沢な時間、贅沢な暮らし。こつこつ、自分たちでやることが、いかに豊かで満ち足りたものか。とても真似できないけれど、羨ましい限りである。
『家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない』 ――ル・コルビュジエ
『すべての答えは、偉大なる自然のなかにある』――アントニ・ガウディ
『ながく生きるほど、人生はより美しくなる』――フランク・ロイド・ライト
これらの言葉を実践した二人の暮らしは、唐突に終わりを告げる。津端修一さんの眠るような安らかな死。誰もがこんな死に方をしたいと思うだろう。庭で畑作業をして、休んだまま、そのまま起きなかったという。カメラは、その津端修一さんの安らかな死顔を捉える。このドキュメンタリーの優れたところは、そこで終わらないところだ。一人残された奥様の姿を、カメラは撮り続ける。毎朝、亡き夫のために朝ごはんを用意して、遺影の前に供え、自分はパンで朝食をとる。夫ともに今も生きている津端英子さん。それでも一人でテレビを見ている英子さんの姿はせつない。
そんな彼女のもとに、夫が最後にやった仕事、九州の精神科クリニックの建築設計の経過報告がなされる。番組は、自然とともに人はゆっくりと暮らすべきだという津端修一さんの考え方を、その病院建設のエピソードを通じて描く。津端修一さんにとっての家、建物は思想そのものだ。「ゆっくり、こつこつ」。丁寧に生きていくことの大切さ、豊かさを、私たちに教えてくれる。すばらしい作品だ。
製作年 2016年
製作国 日本
配給 東海テレビ放送
上映時間 91分
監督:伏原健之
プロデューサー:阿武野勝彦
撮影:村田敦崇
編集:奥田繁
音楽:村井秀清
音楽プロデューサー:岡田こずえ
ナレーション:樹木希林
キャスト:津端修一、津端英子
☆☆☆☆☆5
(シ)
なるほど。被写体が魅力的なご夫婦だ。このドキュメンタリーがここまで人気となったのは、このご夫婦の魅力に尽きる。名古屋郊外のニュータウンを設計した建築家、津端修一さん(90歳)と、その奥様、津端英子さん(87歳)。お二人の生き方、その人柄、お二人ともいい笑顔だ。人生を自分たちなりに、ゆっくりと愉しもうとする姿。数々のフルーツに野菜の自家菜園。自ら植えた雑木林と二人の家。菜園の手作りのプレート、自家製燻製に、鳥の水飲み場まで、スローライフそのものの二人の暮らし。
何度か繰り返される樹木希林のナレーション、「風が吹けば、枯葉が落ちる。枯葉が落ちれば、土が肥える。土が肥えれば、果実が実る。こつこつ、ゆっくり。人生フルーツ」という言葉にある通り、二人の暮らしは、「こつこと、ゆっくり」と、時をかさねる。枯葉を堆肥にし、畑にまき、収穫の時を待つ。津端修一さんが作る可愛らしい黄色いプレートや旗、飛行機の風車や夫婦の似顔絵など、細部が人生の愉しみに満ちている。ゆっくりと季節がめぐり、野菜やフルーツの収穫後は丁寧な作業を経て、二人のご馳走となる。障子の張替えや、孫のためのドールハウス作りなど、出来ることはみんな自分たちでやる。顔なじみの八百屋さんや魚屋さんなどマメにハガキを書き、信用したものだけを買う。
ナレーションが少なく、構成も見事だ。彼らの暮らしに寄り添うように、カメラはじっと静かに二人を見つめ続ける。娘さんや孫など二人以外は、一切登場させない(孫は声のみ出演)。近所の人がちょこっと出てくる程度だ。お金をかけたものではない贅沢な時間、贅沢な暮らし。こつこつ、自分たちでやることが、いかに豊かで満ち足りたものか。とても真似できないけれど、羨ましい限りである。
『家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない』 ――ル・コルビュジエ
『すべての答えは、偉大なる自然のなかにある』――アントニ・ガウディ
『ながく生きるほど、人生はより美しくなる』――フランク・ロイド・ライト
これらの言葉を実践した二人の暮らしは、唐突に終わりを告げる。津端修一さんの眠るような安らかな死。誰もがこんな死に方をしたいと思うだろう。庭で畑作業をして、休んだまま、そのまま起きなかったという。カメラは、その津端修一さんの安らかな死顔を捉える。このドキュメンタリーの優れたところは、そこで終わらないところだ。一人残された奥様の姿を、カメラは撮り続ける。毎朝、亡き夫のために朝ごはんを用意して、遺影の前に供え、自分はパンで朝食をとる。夫ともに今も生きている津端英子さん。それでも一人でテレビを見ている英子さんの姿はせつない。
そんな彼女のもとに、夫が最後にやった仕事、九州の精神科クリニックの建築設計の経過報告がなされる。番組は、自然とともに人はゆっくりと暮らすべきだという津端修一さんの考え方を、その病院建設のエピソードを通じて描く。津端修一さんにとっての家、建物は思想そのものだ。「ゆっくり、こつこつ」。丁寧に生きていくことの大切さ、豊かさを、私たちに教えてくれる。すばらしい作品だ。
製作年 2016年
製作国 日本
配給 東海テレビ放送
上映時間 91分
監督:伏原健之
プロデューサー:阿武野勝彦
撮影:村田敦崇
編集:奥田繁
音楽:村井秀清
音楽プロデューサー:岡田こずえ
ナレーション:樹木希林
キャスト:津端修一、津端英子
☆☆☆☆☆5
(シ)
「カフェ・ソサエティ」ウディ・アレン

1930年代ハリウッド黄金時代を背景に、きらびやかな社交界(カフェ・ソサエティ)に身を置くことになった青年の恋や人生を描いたロマンティック・コメディ。まずなによりも、ハリウッドの社交界のきらびやかさや女優たちの美しき衣装を楽しめばいい。ウディ・アレンのナレーションでテンポよく展開されるストーリー。そして美しき女優たち。ちょっとほろ苦い大人の恋の物語である。ズブズブと目先の欲望に溺れていく不愉快な不倫映画になっていないところがいい。恋のワクワク感とちょっとビターな人生の皮肉が味わえる。
ニューヨークから出てきたイモ臭い青年ボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)の役回りはいつものウディ・アレンだ。そして、プールのある豪邸で繰り広げられるパーティーや美女たちが華やかに描かれる一方、ちょっとしたたかで個性的なボビーのユダヤ人家族が描かれるのが面白い。ハリウッドのショービジネスで成功した叔父(スティーブ・カレル)や、暗黒街のギャングになる兄。虚飾のショービジネスと裏社会で成功したユダヤ人がサラリと描かれる。
叔父と愛人関係にあり、ボビーが恋する秘書のヴエロニカにクリステン・スチュワート。皮肉な恋の三角関係がまず描かれる。ヴェロニカとの結婚を諦め、ハリウッドのゴシップや自慢話に嫌気がしてニューヨークに戻り、ギャングの兄のナイトクラブの支配人となり、店を成功させ、そこで出会ったのが、もう一人のヴェロニカ、ブレイク・ライブリー。ひとりの男とふたりのヴェロニカ。後半は、再び、最初に恋したヴェロニカと再会し、ボビーの気持ちが揺れ動く。
ストーリーはたいしたことはない。華やかな世界の虚飾性とその裏側のシンプルな恋心。この映画は、そんな皮肉な恋物語をただただ楽しめばいいのだ。
作品データ
原題 Cafe Society
製作年 2016年
製作国 アメリカ
配給 ロングライド
上映時間 96分
監督:ウディ・アレン
製作:レッティ・アロンソン、スティーブン・テネンバウム、エドワード・ワルソン
製作総指揮:アダム・B・スターン、マーク・I・スターン、ロナルド・L・シェ
脚本:ウディ・アレン
撮影:ビットリオ・ストラーロ
美術:サント・ロカスト
衣装:スージー・ベンジンガー
編集:アリサ・レプセルター
ナレーション:ウディ・アレン
キャスト:ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、ブレイク・ライブリー、スティーブ・カレル、コリー・ストール、パーカー・ポージー、ケン・ストット、ジーニー・バーリン、サリ・レニック、スティーブン・クンケン、アンナ・キャンプ、キャット・エドモンソン
☆☆☆☆4
(カ)