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小室等と別役実

再び別役実の話である。その後、別役のいろいろな戯曲を読んでいる。そして、ユリイカ「別役実の世界」を読んでいたら、小室等が文章を寄せていた。

1969年、「ザ・ハイスクールライフ」という読書新聞の編集人をしていた松岡正剛氏が「六文銭」と出会い、六文銭挽歌集なる作家が六文銭に詞を書き下ろす企画があったのだという。この読書新聞の執筆陣筆頭が稲垣足穂!表紙は宇野亜喜良、アートディレクション小島武。マニアックなタブロイド紙だった。そして、六文銭挽歌集に詞を書き下ろしたのが、別役実「ヒゲのはえたスパイ」、唐十郎「ひなまつりの歌」、清岡卓行「思い出してはいけない」、富岡多恵子「思い出さないで」、吉増剛造「今夜・きみ」、滝口雅子「若もの」、大岡信「わたしは月にいかないだろう」、佐藤信「まっかなよるの道行」、高橋睦郎「三途川ブルース」、入沢康夫「恋の扉」というラインナップだったという。さすが松岡正剛、凄い顔ぶれだ。

「ひなまつりのうた」は、早稲田小劇場から委嘱された唐十郎の「少女仮面」の劇中歌に採用されたそうだ。早稲田を家の事情で中退しながら文学的演劇的に早稲田界隈を闊歩していた松岡正剛の引き合わせで、小室等は演劇界の唐十郎、別役実、黒テントの佐藤信と出会った。唐十郎の稽古場を訪ねて「ジョン・シルバー」を唄った演劇的な出会いのエピソード、別役邸では、暗黒舞踏の土方巽と酒を酌み交わした思い出など、読んでいて、その時代の破天荒さとその顔ぶれに心が躍る。

「ヒゲのはえたスパイ」
あの街と この町に
日が暮れて
そしてわたしはスパイ
わたしはヒゲのはえたスパイ
モチロン
ヒゲはつけひげ 目は黒メガネ
足は義足 手はプラスチック
パスポートはにせもの たましいはスパイ

わたしはコイビトにささやく
わたしはスパイ
わたしはその筋の秘密のスパイ
あなたのおもいでに忍びこみ
毎夜毎夜 わきの下をくすぐる
あなたが夢のなかで笑うとき
そのときわたしはスパイ
こころのまずしいスパイ

この街とあの街に
夜がきて
みてごらんあの空を
暗号が走る
チチシンダスグカエレ
ハハシンダスグカエレ

わたしは火星からやってきて
火星に帰れないスパイ
ナゼナラ
わたしのロケットは
あなたがたべてしまった
わたしはロケットのない
火星のスパイ
たべられたロケットの
おもいでのスパイ

さようならコイビト
おさかなによろしく
わたしはおもいでのヒゲのはえたスパイ
(ユリイカ 「別役実の世界」掲載より)


こんなわけのわからない歌詞(演劇のプロットでもあったらしい)に小室等は面白がって曲をつけたという。

1980年代に小室等がローマに行ったとき、「雨が空から降れば」を歌ったら現地でウケて、イタリア語に訳すことになったそうだ。しかし、「思い出は地面にしみこむ」が訳せなかった。「思い出は地面にしみこまない」と言われ、この表現がきわめて日本的だということに気づいたそうだ。「しょうがない雨の日はしょうがない」というところだけイタリア語でみんなで歌ったという。

2016年、文学座の新作公演として「雨が空から降れば」を別役氏が書きおろし、その劇中歌を小室等が作曲し、別役実が詞を書いた。それが別役実の歌の遺作となった。

「お葬式が行く」
ごらんあそこを
あの街角を
お葬式が行く
とぼとぼと
ノボリを立てて
カネを鳴らして

きっとお母さんが死んで
子供が泣いている

ごらんあそこを
あの土手の上を
お葬式が行く
ぞろぞろと
風に吹かれて
雲に追われて

きっと恋人が死んで
婚約者が泣いている

ごらんあそこを
あの空の彼方を
お葬式が行く
すいすいと
月面をよぎって
星星をくぐって

きっと名も無き人が死んで
名も無き人が泣いている

行け行けお葬式
はるかなる墓地へ
飛べ飛べお葬式
宇宙の彼方へ  
 (Pカンパニー2016年版『雨が空から降れば』より)

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テーマ : つぶやき
ジャンル : 日記

「雨が空から降れば」の歌と別役実

「雨が空から降れば」という歌がある。小室等の歌である。フォークグループの六文銭だ。子供の頃からこの曲が好きで、雨が降るたびに口ずさんでいた。「しょうがない、雨の日がしょうがない」と。

最近、今年の3月に亡くなられた別役実の戯曲を読んでいた。別役稔の演劇祭が札幌であり、2つほど別役実作品の公演も観た。「壊れた風景」と「虫たちの日」という作品だ。どちらも面白かった。「淋しいおさかな」の童話集のレビューを書いたとき、「別役実というと六文銭の歌を思い出す」というコメントをいただいた。「ん!?」と思っていたら、読んでいた戯曲の中に「雨が空から降れば」の台詞が出てきたのだ。

「ふなと会話をしませんか」という商売をする「ふなやー常田富士男とふなとの対話ー」という戯曲の中の一節だ。「淋しいおさかな」の童話の一つ「ふなや」をバージョンアップしたような戯曲になっていて、そのなかに「雨が空から降れば」の歌詞のフレーズが出てくる。

雨が空から降れば 思い出は地面にしみこむ
雨がシトシト降れば 思い出もシトシトにじむ

黒いコ―モリ傘をさして 街を歩けば
あの街も雨の中 この街も雨の中
電信柱もポストもふるさとも雨の中

しょうがない 雨の日はしょうがない
公園のベンチで一人 おさかなを釣れば
おさかなもまた 雨の中

しょうがない 雨の日はしょうがない・・・

(「ふなやー常田富士男とふなとの対話ー」より)
「雨が空から降れば」作詞:別役実 作曲:小室等


そうか、そうだったのか。この歌は別役実の作詞だったのか。てっきり小室等の作詞作曲だとばかり思っていた。今まで知らなかった。「電信柱もポストもふるさとも雨の中」というあたりは、確かに別役っぽい。雨の中にポストも街もみんな包まれていく感じがいい。雨が降る中で、何もできず、何もすることもなく、ただ雨を眺めている・・・そんな情景が浮かんでくる。だからいつも、「雨の日はしょうがない」とつぶやきながら、時間を持て余していたのだ。

あらためて考えるとちょっと不思議な「公園のベンチで一人 おさかなを釣れば」というシチュエーション。公園で一人で「魚釣り?釣り堀?」という奇妙な状況の歌詞。それも、「ふなとお話しませんか」とバケツにふなを入れてリヤカーを引きながら公園にやってくる「ふなや」の話からこの歌詞が生まれたんだということが分かれば、納得だ。そうか、この「おさかな」は「ふなや」の「ふなの太郎」なのだ。ただ、歌詞はそんな元ネタなど知らなくても、なんとなくどこにでもある公園の池の中で泳いでいる鯉か何かを思い浮かべても問題のないようになっている。

ネットで調べてみると、小室等は唐十郎の状況劇場や早稲田小劇場の音楽を担当していたそうだ。唐十郎作の「少女仮面」を早稲田小劇場が上演したとき(1969年)の「時はゆくゆく」という曲が小室等と演劇との関わりのはじまりだったらしい。

そして、1970年初演の別役実の演劇企画集団66の「スパイものがたり」の音楽を小室等が担当し、そのなかの曲の一つがこの「雨が空から降れば」だったそうだ。1971年の小室等のソロアルバム「私は月には行かないだろう」に収録され、「みんなのうた」にも採用され、その後、南こうせつやかぐや姫などにもカバーされ、多くの人の記憶に残る名曲になった。

私としては、大好きだったこの歌が、別役実とつながっていたことが知れて嬉しい。いいものは、やはりいいいのだ。

ちなみに六文銭は「面影橋から」という歌も好きで、昔、新宿に住んでいたころ、面影橋行きの都電をよく見かけたものだ。この曲は及川恒平・田中信彦作詞、及川恒平作曲なんですね。あぁ、懐かしや。

テーマ : つぶやき
ジャンル : 日記

「淋しいおさかな 別役実童話集」別役実(三一書房)

別役実さんは2020年3月に82歳でお亡くなりになった、日本を代表する戯曲家であり演劇人だ。日本の不条理演劇とも日本のベケットとも言われ、電信柱やバス停や卓袱台などというシンプルなセットで物語が終始する。こうもり傘にトランクに帽子という男がいて、登場人物たちには名前がない。男1、男2、女1、女2と呼ばれるだけである。徹底した抽象性。リアリティをとことん削り、寓話的であり、道の途中で迷っている人間たちが登場する。どこかからどこかへ行く途中だったり、何かを探し求めたり。そして人々の会話はいつも微妙にズレている。

最近、別役実メモリアル演劇祭「別役劇祭」が札幌であり、「壊れた風景」(劇団清水企画)の舞台を観た。1976年の初演から何度も演じられている戯曲だが、今観てもまったく古くなく現代的ですらある。傑作である。コメディでありながら、人間や社会への鋭い風刺が見事に描かれている。同調しやすい安易さや自分勝手な正当化、さらに理解不能の闇や怖さなど、笑いとともに背筋がゾクッと来る。道端で迷った者たちが、駅はあっちだとか、今はここだとか、ああでもない、こうでもないと言い合うだけの話だ。そこになぜかピクニックのセットが放置されてあり、蓄音機のレコードが壊れたまま、音楽が繰り返されている。誰のピクニックのセットなのかわからないまま、人々は次第にそのピクニックセットの食べ物などに勝手に手をつけ始める歪んでいく日常。本当に笑えて怖い戯曲だ。

さて、この童話集はいつか古本屋で買っていて、読まずに本棚に放置していたものだ。別役実の凄さをちゃんと確認しようと思って、童話集を手に取った。NHKの幼児番組「おはなしこんにちは」のために書かれた22編の短編童話だ。どれも哀切で愛おしく孤独で淋しくて素晴らしい。小さな街の小さな、ささやかなお話だ。

「ねぇ、何故かしら。お空があんなに青いのに、海がこんなに広いのに、太陽があんなに光って、そして暖かいのに、私、涙がこぼれるわ」 (「淋しいおさかな」)


小さな街の彷徨える人々。行商人のような街から街へと移動する人が度々登場する。定住者で満足しきっている人はいない。どこかに何か不安や不満を抱えており、この街から別の街へと彷徨う場合が多い。

なかでも哀切で傑作なのは「猫貸し屋」や「ふな屋」だ。「猫貸し屋」は、「猫かしましょーう、おとなしい猫・・・」と、淋しい老人たちのために猫を貸す商売をしている爺さんの話だ。最近、猫を借りるお客さんがいなくなったと思ったら、街に誰もいなくなっていたという限界集落のような現代的な淋しい物語だ。「ふな屋」は公園で「ふなとお話ができる」という奇妙な商売をしている男の話だ。リヤカーを引きながら公園に現れて鈴を鳴らし、「ふな屋でござい、ふなとお話をしましょう」と小さな声で呼び込みをする。バケツの中のふなの太郎が、ツンツンと鼻の先で鉛の玉を突っつくのだ。それが手に持っている竿に伝わって、ふなが話しているように聞こえるのだという。夕方の公園でひっそりと、ふなと話をする体験を想像すると、なんだかとても愛おしく切なくなってくる。ノスタルジーを感じる哀愁に満ちた物語だ。

そのほか、「あなたはスパイです」という手紙がいきなり届いて戸惑う話(「みんなスパイ」)や、みんなが誰かに見られているような気がして、みんながスパイじゃないかと疑心暗鬼になる街の話(「見られる街」)、何を作っているのかわからない工場がいきなりできて、煙がいつも出ていて、街のみんなで何が出来るんだろうと想像して期待していたのに、何も作らず煙を出すだけのための工場だったという物語(「工場のある街」)や、幸せすぎるから、他の街で苦労して幸せになるために街を出て行こうする人たちの騒動(「可哀そうな市長さん」)、ただただ意味もなく街の見張りをする「歩哨のいる街」など、愚かさやバカバカしさとともに奇妙な可笑しさがあるのが面白い。別役実のシチュエーションコントのような笑いやペーソス、そして孤独な淋しさなどに満ちている素敵な童話集だ。

テーマ : ブックレビュー
ジャンル : 小説・文学

劇団マームとジプシー「ΛΛΛかえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと―」藤田貴大 作・演出

マームとジプシー10周年Anniversary Tourの一つとして札幌公演で上演された演目。北海道、伊達市出身の藤田貴大が26歳で岸田戯曲賞を受賞した「かえりの合図、」「待ってた食卓、」(2011)を軸に、藤田の生家である祖母の家が区画整理によってなくなった出来事をテーマに描いた「ワタシんち、通過。のち、ダイジェスト。」(2012)のモチーフを加え、「家族・家」をテーマに再編集した作品・・・とパンフレットには書いてある。今回、10周年ということで過去の作品を再構成した4つの演目を札幌で上演したうちの一つである。

ここで何か書いておかないと、記憶の彼方に忘れ去られてしまいそうなので、備忘録も兼ねてレビューを書く。動作と台詞の繰り返しが特徴だとされているマームとジプシーは、以前から観たいと思っていた劇団である。又吉直樹と藤田貴大の対談などNHKの番組でも取り上げられ、今、最も注目されている劇団の一つといえるだろう。しかも、、北海道伊達出身の劇作家・演出家である。楽しみにしていた。

海沿いの列車に乗っている二人の少女の語りと台詞で始まる。舞台はシンプルなものだけ。教育文化会館の大ホールの舞台にまず客は案内される。客席が舞台に作られているのだ。簡素な舞台を3方から取り囲むように客席が作られ、本来のホールの客席は使われず、幕が閉じられ見えないようになっている。(最後にその幕が開いて無人の客席が見える仕掛けがある。)

海沿いを走る列車がどこかの田舎の駅(伊達駅を思わせる)に到着し、少女たちが降り立つ。そこで、町の人々が交差していくのだが、何度も台詞やアクションが繰り返される。時間も過去が挿入され、かつてこの田舎を出て行った姉が駅から旅立った時のことなども演じられ、「この駅からどれだけの人が旅立て行ったのだろう」などと語られる。人々が交錯する駅。そして、少女たちを迎えに来た叔父さんや従妹がやってくる。舞台は角度を変えて何度か演じられる。家(食卓)もまた、親戚や家族、そして近所の他者も含めて人々が交錯する場所だ。

それはまるで記憶を再生しているような感じだ。繰り返される台詞は、映像が巻き戻されるように役者たちはくるりと回転して、演じ直される。この芝居は、ある家族の記憶に関する物語だ。そして記憶は何度も再生され、演じられる。かつて、食卓を囲んで賑やかにケンカしながら大騒ぎしつつ、過ごした時間。その家族の記憶。姉妹たちが家から出ていき、長男一人が家に残り、その家が街の区画整理で取り壊されることになる。消えてしまう家、かつての食卓。バラバラになっていく家族。父の死。それでも再生される家族の食卓の記憶。それぞれの記憶。

明らかに東北の震災を意識した作りになっている。海に飲みこまれてしまった人たち。「自分たちではどうにもならないこと」。失われる家は、震災でなくなってしまった家とも重なる。消えてしまうものと、変らないもの。家族の記憶は食卓とともにある。帰る場所としての家、食卓。それが、無くなってしまい、記憶の彼方のものになったとしても、変わらずそこにある。きっと。それぞれの心のうちに。そんな、誰にでも必要なあたたかい食卓の記憶。帰る場所の大切さをあらためて思った。それは、懐かしくせつない大切な記憶だ。現実には失われてしまったけれど、その大切なもの。それが自分自身の家族の記憶に重なったとき、なんだか涙が出てきた。

形を変えてズレつつ繰り返されながら、記憶は何度も反芻される。その家族の記憶、再生される記憶こそが、生きていく未来の力になるのかもしれないと思った。

作・演出:藤田貴大
音楽:石橋英子
衣装:suzuki takayuki
出演:石井亮介、萩原綾、尾野島慎太郎、川嶋ゆり子、斉藤章子、中島広美ほか

テーマ : 演劇
ジャンル : 学問・文化・芸術

演劇 五反田団「pion」  前田司郎 作・演出

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五反田団「pion」前田司郎 作・演出 キャスト:鮎川桃果、黒田大輔、前田司郎   札幌シアターZOO

2015年に「記憶の化け物」という題で初演されたものの再演。札幌では初公演。男と女、そして獣との奇妙な三角関係を描く。前田司郎は劇団「五反田団」を主宰し、劇作家、演出家、俳優として活躍する一方で、09年には『夏の水の半魚人』で三島由紀夫賞も受賞し、小説家としても注目されているマルチな才能の持ち主。僕はNHKBSドラマ『徒歩7分』(向田邦子賞受賞)を見て面白かったし、『横道世之介』(2012年、脚本)、『ふきげんな過去』(2016年、脚本・監督)のどちらの映画も面白かったので、ずっと彼の芝居を観てみたかったのだ。

だから楽しみにしていた。それにしてもシュールな不思議な童話みたいな芝居だ。『ふきげんな過去』でも巨大なワニが出てくるし、この芝居は未知の生物パイオンpionときた。ライオンlionならぬpion。動物が好きなんだなぁ。pionはライオンより強いらしいが、まぁ象徴としての獣である。

舞台は檻を表すジャングルジムとベッドだけのセット。最初は男が女に言い寄っている。女は男に言い寄られて、困っている。断っても断っても、男は言葉の限りを尽くして、「君を幸せにする」と語り続ける。まさに屁理屈の塊り。男の強引さに言い寄られるまま二人は動物園でデートをするが、女は動物園でpionという獣に恋をする。そして獣と一緒に暮らし始めるのだ。

男も女も屁理屈の塊りのような言い合いである。それが笑える。理屈でがんじがらめになっている人間の滑稽さが表現されている。そんな女が獣に恋をする。理屈(理性)とは正反対の野獣性への憧れ。直観の一目ぼれ。しかし、そんな女もpionと暮らすうちに、pionを人間化しようとする。言葉を教え、過去とか未来とか人間にしか持っていない時間の感覚を獣に教える。「今日は私の誕生日なの」と。記憶の積み重ねとして存在している人間と、現在しかない獣。女は獣に憧れつつも、獣を人間化させようとする矛盾。女は理屈から逃れられない。次第に、女は獣に復讐されていく。

暗がりの部屋に監禁され、女は人間から獣にさせられて、ドロネズミの子を宿し、ドロネズミの王の嫁にさせられそうになる。女を監禁したのは、女に言い寄った男の元彼女が獣になったpionの妻であった。pionは一夫多妻制であったことを女は知る。しかし、女はそのpionの妻を突き落として殺す。pionは獣の皮を脱ぎ捨て、すでに人間化していて、「このままではドロネズミと戦争になるから、女の腹の子を王に渡して和平交渉するしかない」と言う。人間的な策略と交渉。女はそれを拒否して、pionの元を去る。動物飼育員になってまで女につきまとっていた男は女の後を追うが、女は相変わらず相手にしない。

人間、獣、女、男、理屈、欲望、生殖、嫉妬、結婚、愛、過去と未来・・・。理屈から逃れられない人間が獣に恋をし、獣をも人間化しようとして、獣に復讐される話なのか?女は獣の子を宿し、母なる別の生き物になった。恋とか愛とかとは別の次元を生きていくようでもある。男は獣性を持ちつつ、争いのことばかりを考え、いつまでも現在を追いかけるだけである。理屈での自己正当化。女の方が直観のまま生き、未知なる子供を宿し、理屈とは別の未来を体現しているのかもしれない。


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「肝っ玉おっ母とその子どもたち」 ベルトルト・ブレヒト 作
  翻 訳 岩淵達治
  演 出 斎藤歩
  キャスト 櫻井幸絵、斎藤 歩、宮田圭子、佐藤健一、山本菜穂、高子未来、市川 薫、納谷真大(イレブンナイン)、彦素由幸、小佐部明広(劇団アトリエ)、西田 薫、福士恵二、伊東 潤(劇団東京乾電池)、山田百次(劇団野の上・青年団リンク ホエイ)
  会 場 サンピアザ劇場

ブレヒトの戦争を舞台にした音楽劇。17世紀のヨーロッパにおける30年戦争と呼ばれる長い長い戦争があった。子供たちを戦争に取られたくないと思いながらも、次々と死なせてしまい、幌馬車を生活拠点にしてたくましく生きる肝っ玉母さん。

戦争があると物資がなくなり、物が売れる。戦争を糧にして商売をしている母。戦争が終わり平和になると、品物が売れず商売が成り立たなくなってしまう。忌まわしき戦争が、実は経済に役立っているという皮肉をブレヒトはよくわかっていた。過酷な中でもたくましく生きる人生。単純な反戦演劇ではない。平和の中で格差が広がる今という時代にあって、戦争とともに生きた人々のたくましさに我々は何を考えればいいのか?

テーマ : 演劇
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

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            2018年ベスト10
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              「散歩する侵略者
            /予兆 散歩する侵略者」
            「三度目の殺人」
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            「息の跡」
            次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
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            淵に立つ
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            海よりもまだ深く
            ふきげんな過去
            SCOOP!
            永い言い訳
            オーバー・フェンス
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            葛城事件
            湯を沸かすほどに熱い愛
            次点この世界の片隅に


          2015年ベスト10
          <洋画>
            やさしい女
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            さらば、愛の言葉よ
            毛皮にヴィーナス
            雪の轍
            愛して飲んで歌って
            サンドラの週末
            サイの季節
            インヒアレント・ヴァイス
            ソニはご機嫌ななめ

          <日本映画>
            海街dairy
            岸辺の旅
            FOUJITA
            百円の恋
            この国の空


          2014年ベスト10
          <洋画>
            エレニの帰郷
            グランド・ブタペスト・ホテル
            罪の手ざわり
            ウルフ・オブ・ウォールストリート
            ジャージー・ボーイズ
            インサイド・ルーウィン・デイヴィス
            6才のボクが、大人になるまで。
            フランシス・ハ
            ウォールフラワー
            ある過去の行方

            <日本映画>
            そこのみにて光輝く
            ニシノユキヒコの恋と冒険
            紙の月
            Sventh Code
            私の男


              2013年映画ベスト5
          <洋画>
            1、「愛、アムール」
            2、「ホーリー・モーターズ」
            3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
            4、「いとしきエブリデイ」
            5、「ムーンライズ・キングダム」
            ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

            <日本映画>
            1、「共喰い」
            2、「さよなら渓谷」
            3、「恋の渦」
            4、「リアル 完全なる首長竜の日」
            5、「Playback」(2012年)


            2012年映画ベスト10
          <洋画>
          2、「少年と自転車」
          3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
          4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
          5、「きっと ここが帰る場所」
          6、「ドライヴ」
          7、「風にそよぐ草」
          8、「恋のロンドン狂騒曲」
          9、「おとなのけんか」
          10、「別離」
          次点 「裏切りのサーカス」
        番外
          「永遠の僕たち」
          「J・エドガー」
          「家族の庭」

        2、「かぞくのくに」
        3、「演劇1&2」
        4、「夢売るふたり」
        5、「アウトレイジビヨンド」
        番外 「ヒミズ」


      2011年映画ベスト10
      2,「愛の勝利を」
      3,「ブルーバレンタイン」
      4,「愛する人」
      5,「クリスマス・ストーリー」
      6,「トゥルー・グリット」
      7,「SOMEWHERE」
      8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
      9,「エリックを探して」
      10,「シリアスマン」
      次点,「エッセンシャル・キリング」

    2,「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」
    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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