「ルーベ、嘆きの光」アルノー・デプレシャン
WOWOWでアルノー・デプレシャンの劇場未公開作品らしい。第72回カンヌ国際映画祭に正式出品で最新作だ。アルノー・デプレシャンは『クリスマス・ストーリー』ぐらいしか観ていない。
フランス北部のベルギー国境近いルーべという町の警察署の話だ。警察署長の北アフリカ系のタウード署長が知的で落ち着いた物腰で映画全体のトーンとなっている。その署長を演じるロシュディ・ゼムという役者がいい。
映画はクリスマスの夜、あちこちで犯罪が起きる荒れた町の夜がまず描かれる。ドキュメンタリ-のように次々と無線で事件が報告され、警察官が現場に向かう。車が燃やされ、喧嘩があり、ピストル強盗や少女暴行事件や放火事件など、町は移民であふれ、貧民街があり、チンピラや生活困窮者など犯罪は日常茶飯事のようだ。この町に来たばかりの若い警官がいて張り切っている。真面目な警察署長がそんな彼をたしなめながら、無駄口などたたかず事件や町の人々に誠実に向き合っている。署長の家族は北アフリカに帰り、甥は刑務所にいて問題あり。それでも一人、生まれた町で警察署長をやっている。詳しい彼の人生の背景は語られない。自ら家出人の少女探しに出かけたり、現場にも出向く。
前半は小さな事件が次々と起こり、署内での取り調べや別の事件の聞き込み捜査など展開が早い。セリフが矢継ぎ早やで、大きな物語は起こらず、淡々と進む。放火事件の捜査になってやっと物語が絞られてきて、後半は目撃者として参考人だった女性二人(レア・セドゥとサラ・フォレスティエ)がその後に起きた老女殺人事件と関りがあると見られ、その取り調べが物語の中心となっていく。
いずれにしても派手なストーリーはない。ルーべという町の警察署で起きる様々な事件、それを管轄する署長をはじめ奔走する刑事たち。そして犯罪とかかわる人々がリアリティのある描写で描かれていく。物語が中心ではないのだ。あくまでも町に生きる人々を描くことに主軸が置かれている。そこが面白く見応えがある。大げさなドラマなどなくても、映画の魅力に満ちている。人間が生きていくことの難しさや哀しさや慈しみみたいなのが描かれている。署長が馬好きで、夜の競馬場のシーンで終わるのだが、その終わり方がちょっとほっとする感じでいい。
2019年 フランス
原題:Roubaix, Une lumière
監督:アルノー・デプレシャン
出演:レア・セドゥ ロシュディ・ゼム サラ・フォレスティエ アントワーヌ・レナルツ アントワン・ライナルツ
☆☆☆☆4
(ル)
フランス北部のベルギー国境近いルーべという町の警察署の話だ。警察署長の北アフリカ系のタウード署長が知的で落ち着いた物腰で映画全体のトーンとなっている。その署長を演じるロシュディ・ゼムという役者がいい。
映画はクリスマスの夜、あちこちで犯罪が起きる荒れた町の夜がまず描かれる。ドキュメンタリ-のように次々と無線で事件が報告され、警察官が現場に向かう。車が燃やされ、喧嘩があり、ピストル強盗や少女暴行事件や放火事件など、町は移民であふれ、貧民街があり、チンピラや生活困窮者など犯罪は日常茶飯事のようだ。この町に来たばかりの若い警官がいて張り切っている。真面目な警察署長がそんな彼をたしなめながら、無駄口などたたかず事件や町の人々に誠実に向き合っている。署長の家族は北アフリカに帰り、甥は刑務所にいて問題あり。それでも一人、生まれた町で警察署長をやっている。詳しい彼の人生の背景は語られない。自ら家出人の少女探しに出かけたり、現場にも出向く。
前半は小さな事件が次々と起こり、署内での取り調べや別の事件の聞き込み捜査など展開が早い。セリフが矢継ぎ早やで、大きな物語は起こらず、淡々と進む。放火事件の捜査になってやっと物語が絞られてきて、後半は目撃者として参考人だった女性二人(レア・セドゥとサラ・フォレスティエ)がその後に起きた老女殺人事件と関りがあると見られ、その取り調べが物語の中心となっていく。
いずれにしても派手なストーリーはない。ルーべという町の警察署で起きる様々な事件、それを管轄する署長をはじめ奔走する刑事たち。そして犯罪とかかわる人々がリアリティのある描写で描かれていく。物語が中心ではないのだ。あくまでも町に生きる人々を描くことに主軸が置かれている。そこが面白く見応えがある。大げさなドラマなどなくても、映画の魅力に満ちている。人間が生きていくことの難しさや哀しさや慈しみみたいなのが描かれている。署長が馬好きで、夜の競馬場のシーンで終わるのだが、その終わり方がちょっとほっとする感じでいい。
2019年 フランス
原題:Roubaix, Une lumière
監督:アルノー・デプレシャン
出演:レア・セドゥ ロシュディ・ゼム サラ・フォレスティエ アントワーヌ・レナルツ アントワン・ライナルツ
☆☆☆☆4
(ル)
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「家族を想うとき」ケン·ローチ
ケン・ローチの映画はメッセージがストレートなので避けていた。あまり熱心な観客ではなかった。それでも『わたしは、ダニエル・ブレイク』は良かったので、この作品も観た。
個人事業主という名の罠。果てしない過酷な労働。「はたらけどはたらけどなお、わがくらし楽にならざり、ぢっと手を見る」の啄木の歌そのものの映画。機械やデータに徹底的に管理され、仕事の融通は利かない。ささやかな幸せを願っているだけなのに、必死に働いても暮らしは楽にならず、キツくなるばかり。ズルいことや悪いことなど何もしていないのに、真面目に働いているだけなのに、家族の笑顔は減り、喧嘩が絶えなくなり、バラバラになっていく。そのキッカケはちょっとしたこと。誰もがちょっとしたことで、身動きが取れなくなり地獄へと落ちる、格差社会の労働環境。
そんな現代の過酷な労働環境を容赦なくケン・ローチは描く。それでいて、人間を見つめる目はとてつもなく温かい。ピンチの中でも、家族みんなでの夜のドライブはホッとするし、つかの間取り戻した食卓を囲む笑顔は、昔のように幸福そのものだ。それがひとつ歯車が狂っていくと、もう暴走するしかない。ラスト、ケン・ローチは安易はハッピーエンドを用意していない。現実はそこまで過酷なのだと言わんばかりだ。虚構の幸福など見せかけにしか過ぎない。我々はこの過酷な現実と向き合うしかないのだ。
原題:SORRY WE MISSED YOU
製作国イギリス/フランス/ベルギー
提供 バップ
提供・配給 ロングライド
アメリカンビスタサイズ/カラー/5.1c
監督 ケン・ローチ
製作 レベッカ・オブライエン
脚本 ポール・ラヴァティ
撮影 ロビー・ライアン
音楽 ジョージ・フェントン
キャスト クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター(
☆☆☆3
(カ)
個人事業主という名の罠。果てしない過酷な労働。「はたらけどはたらけどなお、わがくらし楽にならざり、ぢっと手を見る」の啄木の歌そのものの映画。機械やデータに徹底的に管理され、仕事の融通は利かない。ささやかな幸せを願っているだけなのに、必死に働いても暮らしは楽にならず、キツくなるばかり。ズルいことや悪いことなど何もしていないのに、真面目に働いているだけなのに、家族の笑顔は減り、喧嘩が絶えなくなり、バラバラになっていく。そのキッカケはちょっとしたこと。誰もがちょっとしたことで、身動きが取れなくなり地獄へと落ちる、格差社会の労働環境。
そんな現代の過酷な労働環境を容赦なくケン・ローチは描く。それでいて、人間を見つめる目はとてつもなく温かい。ピンチの中でも、家族みんなでの夜のドライブはホッとするし、つかの間取り戻した食卓を囲む笑顔は、昔のように幸福そのものだ。それがひとつ歯車が狂っていくと、もう暴走するしかない。ラスト、ケン・ローチは安易はハッピーエンドを用意していない。現実はそこまで過酷なのだと言わんばかりだ。虚構の幸福など見せかけにしか過ぎない。我々はこの過酷な現実と向き合うしかないのだ。
原題:SORRY WE MISSED YOU
製作国イギリス/フランス/ベルギー
提供 バップ
提供・配給 ロングライド
アメリカンビスタサイズ/カラー/5.1c
監督 ケン・ローチ
製作 レベッカ・オブライエン
脚本 ポール・ラヴァティ
撮影 ロビー・ライアン
音楽 ジョージ・フェントン
キャスト クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター(
☆☆☆3
(カ)
「イメージの本」 ジャン=リュック・ゴダール
「たとえ何一つ望み通りにならなくても、希望は生き続ける」。
ゴタールを追いかけ続けた。わけがわらかなくても、新作が上映される度に、映画館に駆けつけ、ゴタールの新作を観られる喜びを享受してきた。私がゴタールを知ったとき、すでにゴタールは伝説の人だった。フランス・ヌーヴェル・ヴァーグの旗手。初期のゴタールは、めちゃくちゃ新しくてカッコ良かった。カメラをスタジオから解放し、町へと持ち出して、即興演出と同時録音で生き生きとした映画を作った。。映像は躍動し、役者たちは輝いていた。ゴタールのミューズ、アンナ・カリーナは、とにかくキュートで、美しかった。『勝手にしやがれ』のベルモンドも、ジーン・セバークも。『はなればなれに』の映画の高揚感とかっこよさは、忘れられない。『気狂いピエロ』の南仏の光も、『小さな兵隊』や『女は女である』も初期の映画はどれも楽しい。次第に政治の季節を迎えながら、ゴダールは社会と映画そのものと格闘し続けた。そして、88歳になってもなお、ゴダールは最前線を走り続けている。ラジカルに世界と渡りあっている。世界と関わることは、政治的であることから逃れられない。そして、音と映像そのものと根本的に格闘し続けている。
5本の指、5大陸から始まるこの映画は、さまざまな映画や絵画の引用が加工されながら羅列されていく。「リメイク」「ぺテルスブルグ夜話」「線路の間の花々は旅の迷い風に揺れて」「法の精神」「中央地帯」「幸福なアラビア」などとタイトルがつけられているが、その意味するところはさっぱリわからない。暴力、革命、法、戦争、水と死、鉄道、民族、アラブ、女性の顔、色彩、アジテーション、書物、・・・。映像、イメージ、テキストは断片的に繋ぎ合わされ、音も歌も爆発音も暴力的にコラージュされている。
「人々の悲しみが足りないから世界はよくならない」のか?言葉と映像を積み重ねて、ゴタールは世界を変える「希望」を語り続ける。しかし、その「希望」は、本当の希望なのか?私たちは、いつまでもゴダールの後を追いかけ続けるしかない。
原題 Le livre d'image
製作年 2018年
製作国 スイス・フランス合作
配給 コムストック・グループ
上映時間 84分
監督:ジャン=リュック・ゴダール
製作:ファブリス・アラーニョ、ミトラ・ファラハニ
脚本:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:ファブリス・アラーニョ
編集:ジャン=リュック・ゴダール、ファブリス・アラーニョ
ナレーション:ジャン=リュック・ゴダール
☆☆☆☆4
(イ)
ゴタールを追いかけ続けた。わけがわらかなくても、新作が上映される度に、映画館に駆けつけ、ゴタールの新作を観られる喜びを享受してきた。私がゴタールを知ったとき、すでにゴタールは伝説の人だった。フランス・ヌーヴェル・ヴァーグの旗手。初期のゴタールは、めちゃくちゃ新しくてカッコ良かった。カメラをスタジオから解放し、町へと持ち出して、即興演出と同時録音で生き生きとした映画を作った。。映像は躍動し、役者たちは輝いていた。ゴタールのミューズ、アンナ・カリーナは、とにかくキュートで、美しかった。『勝手にしやがれ』のベルモンドも、ジーン・セバークも。『はなればなれに』の映画の高揚感とかっこよさは、忘れられない。『気狂いピエロ』の南仏の光も、『小さな兵隊』や『女は女である』も初期の映画はどれも楽しい。次第に政治の季節を迎えながら、ゴダールは社会と映画そのものと格闘し続けた。そして、88歳になってもなお、ゴダールは最前線を走り続けている。ラジカルに世界と渡りあっている。世界と関わることは、政治的であることから逃れられない。そして、音と映像そのものと根本的に格闘し続けている。
5本の指、5大陸から始まるこの映画は、さまざまな映画や絵画の引用が加工されながら羅列されていく。「リメイク」「ぺテルスブルグ夜話」「線路の間の花々は旅の迷い風に揺れて」「法の精神」「中央地帯」「幸福なアラビア」などとタイトルがつけられているが、その意味するところはさっぱリわからない。暴力、革命、法、戦争、水と死、鉄道、民族、アラブ、女性の顔、色彩、アジテーション、書物、・・・。映像、イメージ、テキストは断片的に繋ぎ合わされ、音も歌も爆発音も暴力的にコラージュされている。
「人々の悲しみが足りないから世界はよくならない」のか?言葉と映像を積み重ねて、ゴタールは世界を変える「希望」を語り続ける。しかし、その「希望」は、本当の希望なのか?私たちは、いつまでもゴダールの後を追いかけ続けるしかない。
原題 Le livre d'image
製作年 2018年
製作国 スイス・フランス合作
配給 コムストック・グループ
上映時間 84分
監督:ジャン=リュック・ゴダール
製作:ファブリス・アラーニョ、ミトラ・ファラハニ
脚本:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:ファブリス・アラーニョ
編集:ジャン=リュック・ゴダール、ファブリス・アラーニョ
ナレーション:ジャン=リュック・ゴダール
☆☆☆☆4
(イ)
「サンセット」ネメシュ・ラースロー
カンヌ国際映画祭グランプリを獲ったデビュー作「サウルの息子」に続いて
ネメシュ・ラースロー監督2作目。アウシュビッツの息詰まる閉鎖性は、手持ちのカメラによる視写界深度の浅い特殊な撮影手法により描かれていた。ある人物だけにピントを合わせ、背景はボカシて、客観描写がないのだ。その主観カメラだけで映画は展開されるため、閉鎖的だし、息が詰まる。今回も同じだった。
その手法が正直成功しているとは思えなかった。全体像が見えずらいだけだった。
1913年、ブダペスト。第1次世界大戦前、ヨーロッパ、オーストリア=ハンガリー帝国が栄華を極めた時代。ある女性イリスはレイター帽子店で働くためにやってきた。映画は、このイリス(ユリ・ヤカブ)という女性に寄り添うようにしてカメラを回し続ける。セットで当時の帽子店などを再現したということなのだが、背景となる
街並みや帽子店はボケて見えるだけ。カメラは街や他の人々ではなく、イリスだけを追い続ける。だから、観客はイリスの顔ばかり見させられる。客観描写がない。すべてイリスの目線を通じた主観の世界。
オーストリア皇太子も訪れるような華やかで憧れの場所に見えた帽子店。イリスの両親はかつてこの帽子店を営んでいた。しかし、代替わりになった現オーナー・ブリルは、裏でウィーンの王侯貴族に店の女性を捧げているらしい。
華やかな富裕層の高級帽子店、その裏側の闇。富裕貴族とプロレタリアアートの怒りと暴動。しかも、イリスには「兄」がいて、伯爵殺しの事件を起こし、今は行方不明だという。イリスは「兄」を探し続けるが「兄」にはなかなか会えない。
そもそも「兄」が本当にいるのかさえよくわからない。よくわからないように作ってあるのだ。それはあくまでもイリスの目から見た世界だから。「この場所を去れ」と何度言われても去らずに「兄」を探し続けるイリスの頑固さと芯の強さ。
画面の不自由さは、音が効果的でもある。画面のどこからともなく聞こえてくる声は臨場感のある演出だ。しかし、すべてこの手法ばかりだと、欲求不満と不可解さが募り、疲れてくる。
(ネタばれあり)
そして、ラスト。イリスとは何者だったのか?男装のイリス?「兄」とは?「兄」に自らを重ねていったのか?観客の想像に委ねられるわけだが、なんともキツネにつままれたような終わり方でした。
原題:Napszallta
製作年:2018年
製作国:ハンガリー・フランス合作
配給:ファインフィルムズ
上映時間:142分
監督:ネメシュ・ラースロー
製作:シポシュ・ガーボル、ライナ・ガーボル
脚本:クララ・ロワイエ、マシュー・タポニエ、ネメシュ・ラースロー
撮影:エルデーイ・マーチャーシュ
音楽:メリシュ・ラースロー
キャスト:ユリ・ヤカブ、ブラド・イバノフ、エベリン・ドボシュ、
マルチン・ツァルニク、モルナール・レべンテ、スザンネ・ベスト、
ナジュ・ジョールト、シャーンドル・ジョーテール
☆☆☆3
(サ)
ネメシュ・ラースロー監督2作目。アウシュビッツの息詰まる閉鎖性は、手持ちのカメラによる視写界深度の浅い特殊な撮影手法により描かれていた。ある人物だけにピントを合わせ、背景はボカシて、客観描写がないのだ。その主観カメラだけで映画は展開されるため、閉鎖的だし、息が詰まる。今回も同じだった。
その手法が正直成功しているとは思えなかった。全体像が見えずらいだけだった。
1913年、ブダペスト。第1次世界大戦前、ヨーロッパ、オーストリア=ハンガリー帝国が栄華を極めた時代。ある女性イリスはレイター帽子店で働くためにやってきた。映画は、このイリス(ユリ・ヤカブ)という女性に寄り添うようにしてカメラを回し続ける。セットで当時の帽子店などを再現したということなのだが、背景となる
街並みや帽子店はボケて見えるだけ。カメラは街や他の人々ではなく、イリスだけを追い続ける。だから、観客はイリスの顔ばかり見させられる。客観描写がない。すべてイリスの目線を通じた主観の世界。
オーストリア皇太子も訪れるような華やかで憧れの場所に見えた帽子店。イリスの両親はかつてこの帽子店を営んでいた。しかし、代替わりになった現オーナー・ブリルは、裏でウィーンの王侯貴族に店の女性を捧げているらしい。
華やかな富裕層の高級帽子店、その裏側の闇。富裕貴族とプロレタリアアートの怒りと暴動。しかも、イリスには「兄」がいて、伯爵殺しの事件を起こし、今は行方不明だという。イリスは「兄」を探し続けるが「兄」にはなかなか会えない。
そもそも「兄」が本当にいるのかさえよくわからない。よくわからないように作ってあるのだ。それはあくまでもイリスの目から見た世界だから。「この場所を去れ」と何度言われても去らずに「兄」を探し続けるイリスの頑固さと芯の強さ。
画面の不自由さは、音が効果的でもある。画面のどこからともなく聞こえてくる声は臨場感のある演出だ。しかし、すべてこの手法ばかりだと、欲求不満と不可解さが募り、疲れてくる。
(ネタばれあり)
そして、ラスト。イリスとは何者だったのか?男装のイリス?「兄」とは?「兄」に自らを重ねていったのか?観客の想像に委ねられるわけだが、なんともキツネにつままれたような終わり方でした。
原題:Napszallta
製作年:2018年
製作国:ハンガリー・フランス合作
配給:ファインフィルムズ
上映時間:142分
監督:ネメシュ・ラースロー
製作:シポシュ・ガーボル、ライナ・ガーボル
脚本:クララ・ロワイエ、マシュー・タポニエ、ネメシュ・ラースロー
撮影:エルデーイ・マーチャーシュ
音楽:メリシュ・ラースロー
キャスト:ユリ・ヤカブ、ブラド・イバノフ、エベリン・ドボシュ、
マルチン・ツァルニク、モルナール・レべンテ、スザンネ・ベスト、
ナジュ・ジョールト、シャーンドル・ジョーテール
☆☆☆3
(サ)