「太陽を盗んだ男」長谷川和彦
かつて長谷川和彦にはカリスマ性があった。寡作ながら時代の寵児だった。「青春の殺人者」とこの「太陽を盗んだ男」の2作しか撮っていないのに、新しい日本映画の流れを作る監督として注目されていた。当時の若手監督9人でディレクターズ・カンパニーも設立した。大森一樹、相米慎二、高橋伴明、根岸吉太郎、池田敏春、井筒和幸、黒沢清、石井聰亙というそうそうたるメンバーだ。彼が脚本を書いた「青春の蹉跌」や「宵待草」は神代辰巳監督の僕の大好きな映画だし、「青春の殺人者」も衝撃的な映画だった。しかし、彼はなぜかこのあと映画を撮れなかった。それが残念でならない。
さて、この「太陽を盗んだ男」であるが、スケール感のある映画である。なんせ一人の理科の中学教師が原爆を作っちゃうんだから。そのアイディアのみで勝負している映画である。原爆という世界最強の力を持ってしまった男の物語。最強の力への欲望。しかし、その力を持ってしまったら、そのことに満足してしまい、いったい何を要求していいのかわからない。
政治の季節か終わり、19070年代後半、世の中は「しらけ」ムードだった。何をしていいのか分からない。無気力、無関心。それでもこの映画にあるようなヘンな男が世界を対峙しようとする思いはある。不純な動機ながら、この世界をふっ飛ばしてやろうという思い。今の時代は、もしかしたらそんなパワーさえないのかもしれない。世界のことを考えたり、対峙するというようなことは、誰かエライ人が考えることで、身のまわりの小さな世界のことで若者たちの関心はいっぱい。社会を変えることも、革命という言葉も遠い昔になった。
風船ガムをいつもくちゃくちゃ噛みながら、無気力に中学の教師をしている男を沢田研二が好演。僕は森田芳光監督の「ときめきに死す」という殺し屋の沢田研二が一番好きだが、この映画でも何を考えているかわからない謎の男をうまく演じている。
この映画は結構ストーリーは無茶苦茶だ。そもそもプルトニウムを盗み出すところから荒唐無稽で、現実味がない。この映画で唯一リアリティのある恐怖は、天皇に会わせろ!とバスジャック事件を起こす伊藤雄之助の方かもしれない。
さらに、ラストの刑事の菅原文太の死んでも死なないゾンビぶりや、池上季実子のパトカーに追われながらのカーチェイスしつつのラジオ中継というのもなんだか無茶苦茶だ。(この映画の一番の欠点は池上季実子かもしれない。魅力に欠ける。)ターザンのように警察の窓を破って原爆を取り戻す場面は、笑ってしまうほどチープだ。そんなツッコミどころ満載の荒唐無稽な活劇にこの映画はあえてしているのだ。それでも原爆を作った男の気分だけは、リアリティがある。それが時代の気分のリアリティなのだろう。
今見ると少し陳腐な感じのする荒唐無稽な映画だが、ときどきドキッとする感じがある。時代の空気を捉えた映画だった気がする。
「崩れそうだから早く!」と言って、高層ビルを支える沢田研二と池上季実子のシーンがなぜか好きだ。
製作年 1979年
製作国 日本
監督:長谷川和彦
製作:山本又一朗
プロデューサー:伊地智啓
脚本:レナード・シュレイダー、長谷川和彦
原案:レナード・シュレイダー
撮影:鈴木達夫
美術:横尾嘉良
照明:熊谷秀夫
音楽:井上尭之
出演:沢田研二、菅原文太、池上季実子、北村和夫、神山繁、佐藤慶、伊藤雄之助
☆☆☆☆4
(タ)
さて、この「太陽を盗んだ男」であるが、スケール感のある映画である。なんせ一人の理科の中学教師が原爆を作っちゃうんだから。そのアイディアのみで勝負している映画である。原爆という世界最強の力を持ってしまった男の物語。最強の力への欲望。しかし、その力を持ってしまったら、そのことに満足してしまい、いったい何を要求していいのかわからない。
政治の季節か終わり、19070年代後半、世の中は「しらけ」ムードだった。何をしていいのか分からない。無気力、無関心。それでもこの映画にあるようなヘンな男が世界を対峙しようとする思いはある。不純な動機ながら、この世界をふっ飛ばしてやろうという思い。今の時代は、もしかしたらそんなパワーさえないのかもしれない。世界のことを考えたり、対峙するというようなことは、誰かエライ人が考えることで、身のまわりの小さな世界のことで若者たちの関心はいっぱい。社会を変えることも、革命という言葉も遠い昔になった。
風船ガムをいつもくちゃくちゃ噛みながら、無気力に中学の教師をしている男を沢田研二が好演。僕は森田芳光監督の「ときめきに死す」という殺し屋の沢田研二が一番好きだが、この映画でも何を考えているかわからない謎の男をうまく演じている。
この映画は結構ストーリーは無茶苦茶だ。そもそもプルトニウムを盗み出すところから荒唐無稽で、現実味がない。この映画で唯一リアリティのある恐怖は、天皇に会わせろ!とバスジャック事件を起こす伊藤雄之助の方かもしれない。
さらに、ラストの刑事の菅原文太の死んでも死なないゾンビぶりや、池上季実子のパトカーに追われながらのカーチェイスしつつのラジオ中継というのもなんだか無茶苦茶だ。(この映画の一番の欠点は池上季実子かもしれない。魅力に欠ける。)ターザンのように警察の窓を破って原爆を取り戻す場面は、笑ってしまうほどチープだ。そんなツッコミどころ満載の荒唐無稽な活劇にこの映画はあえてしているのだ。それでも原爆を作った男の気分だけは、リアリティがある。それが時代の気分のリアリティなのだろう。
今見ると少し陳腐な感じのする荒唐無稽な映画だが、ときどきドキッとする感じがある。時代の空気を捉えた映画だった気がする。
「崩れそうだから早く!」と言って、高層ビルを支える沢田研二と池上季実子のシーンがなぜか好きだ。
製作年 1979年
製作国 日本
監督:長谷川和彦
製作:山本又一朗
プロデューサー:伊地智啓
脚本:レナード・シュレイダー、長谷川和彦
原案:レナード・シュレイダー
撮影:鈴木達夫
美術:横尾嘉良
照明:熊谷秀夫
音楽:井上尭之
出演:沢田研二、菅原文太、池上季実子、北村和夫、神山繁、佐藤慶、伊藤雄之助
☆☆☆☆4
(タ)
スポンサーサイト
tag : 社会派