「裏切りのサーカス」トーマス・アルフレッドソン

スタイリッシュで大人のスパイ映画である。カーチェイスや銃撃戦などアクションがない知的な東西冷戦時代のスパイ映画。人物がいっぱい出てくるし、あまり喋らないし説明が少ないので、勧善懲悪のわかりやすい映画ばかり観ている人には、とっつきにくいかもしれない。だけど、映像は計算されているし、演出も緻密だ。『ぼくのエリ 200歳の少女』は未見なのでよくわからないが、トーマス・アルフレッドソン監督の演出力はしっかりしたものだと思う。
1960年代のロンドン。イギリスの諜報機関サーカスの最高幹部4人の中にいる裏切り者=2重スパイがいるから探し出せ!という映画だ。だからといって、誰が二重スパイなのか?というのはハッキリ言ってどうでもいい。どちらかというと、人と人との関係を描いた映画だ。誰につくか、どちらの陣営につくか、敵と味方の騙しあい。語り合うことではなく、目線で関係が描かれる。見る者と見つめ返す者。考えてみれば、スパイというのは言葉を暗号化し、気安く語り合うことを禁じられている存在だ。当然、言葉もまた封印される。目線のうちに真意を汲み取り、意思を交し合う。そんなドラマだ。冷戦構造こそが、スパイの存在基盤である。騙し、欺き続けることの迷宮に踏み入れる存在の危うさこそスリリングなのだ。
サーカス幹部の会議室、資料室、イスタンブールのカラス越しのホテルの部屋、どれもシンメトリックな映像が美しい。飛行場で裏切り者を追及する場面は、ヒッチコックの映画のような迫力だ。他の硬質なシーンと区別された情緒的な過去のパーティーシーンなども効果的。スマイリーの妻のアンも、ソ連の黒幕カーラも、見せないことで描いているところも巧い。回想シーンが次々と入り、テンポ良く展開し、全編に緊迫感が漲っている。男の気配に満ちている映画だ。
原題: Tinker Tailor Soldier Spy
製作国: 2011年フランス・イギリス・ドイツ合作映画
配給: ギャガ
上映時間: 127分
監督: トーマス・アルフレッドソン
原作: ジョン・ル・カレ
脚本: ピーター・ストローハン、ブリジット・オコナー
撮影: ホイテ・バン・ホイテマ
美術: マリア・ジャーコビク
編集: ディノ・ヨンサーテル
音楽: アルベルト・イグレシアス
キャスト: ゲイリー・オールドマン、キャシー・バーク、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、スティーブン・グレアム、トム・ハーディ、キアラン・ハインズ、ジョン・ハート、トビー・ジョーンズ、サイモン・マクバーニー、マーク・ストロング
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(ウ)
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