「恋人たち」橋口亮輔

生々しくて、いじましくて、女々しくて、くだらなくて、情けなくて、ウジウジしていて、バカで、勘違いしていて、騙されて、弱くて、自己愛が強くて、どうしようもない人間たちの映画。だから、観ているとイライラもするし、ゲンナリもするし、見たくないものまで見せられる鬱陶しさがある。それでもこの妙な生々しさは、他の映画にはない価値だ。さすが去年の公開された映画ベストテンに入るだけのことはある。意欲作だ。
最も成功しているのは、メインの3人のキャスティングに顔を知らない素人を使っていることだ。調べるとオーディションで主役の3人を選んだらしい。どこにでもいそうな、輝いてもいない、パッとしない男や女たちが主役で出ている。妻を通り魔に殺された男(篠原篤)、男に騙される平凡な主婦(成嶋瞳子)、エリート主義で片思いのゲイの弁護士(池田良)。脇を芸達者な役者たちが固めている(光石研、安藤玉恵、木野花、リリー・フランキーなど)。
だから、あまり惹きつけられるものはない。ダメさ加減を見させられるのが嫌な人は見ない方がいいだろう。ただ、そこにはリアリティがあり、なまなましい人間がいる。虚構でカッコよく劇的にデフォルメされた登場人物ではないどうしようもないダメな人間がそこにいる。むしろ、ダメさが強調されている。
ただ、やや自己愛が強くて、妻を通り魔に殺された男の泣き言の多さには辟易した。もう少し抑えた感じでもよかったのではないか。彼の仕事である橋梁点検の水辺の目線の映像が効果的。都会の高速道路などの下を進む水面の移動映像。どうにもならなくても人生は進んでいく現実が表現されている。散々泣いた後で、最後で急に笑顔になるのはちょっと無理な感じもしたが、女が自転車を漕いで進んでいくラストの感じは良かった。それぞれの登場人物の吐露とでもいうようなつぶやきの台詞、離婚相談に来た女子アナの勝手な言い分、ラップをおばあさんが使いまわす場面やコンドームを買いに行く場面とか、鶏舎を見た後に女が高台で小便をするところとか、ゲイの男が切れた携帯に話し続ける場面、カップルが立小便をしながらいちゃつくのを見る場面など、細部の描写や台詞がとてもいい。
橋口監督は「ぐるりのこと」がとても良かった印象がある。久々の新作だけど、かなり冒険をしたのではないか。それでも評価も高く、もう一度メジャーな映画を撮って欲しい気がした。
製作年:2015年
製作国:日本
配給:松竹ブロードキャスティング、アーク・フィルムズ
上映時間:140分
監督・原作・脚本:橋口亮輔
企画:深田誠剛
プロデューサー:深田誠剛、小野仁史、平田陽亮、相川智
撮影:上野彰吾
照明:赤津淳一
録音:小川武
美術:安宅紀史
音楽:明星/Akeboshi
キャスト:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田慈、山中崇、リリー・フランキー
☆☆☆☆☆5
(コ)
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