「消えた声が、その名を呼ぶ」ファティ・アキン

タイトルがなんだかネタバレみたいな感じ。ラストシーンはこのまんまなんです。声を奪われた少数民族の男の悲痛な運命の旅です。原題は「THE CUT」。男は喉をナイフで切られ、声を失った。CUTとは、そのナイフのことか。ナイフとは理不尽な暴力そのものである。
『愛より強く』(ベルリン国際映画祭金熊賞)、『そして、私たちは愛に帰る』(カンヌ国際映画祭脚本賞)のドイツのファティ・アキン監督の新作。僕は個人的には『ソウルキッチン』が好きなんです。
公式HPのよると
悪とは、100年前、オスマン・トルコ国内で起こったアルメニア人虐殺のことである。その犠牲者数は100万人とも150万人とも言われ、ヒトラーがユダヤ人虐殺の手本にしたとも言われている。オスマン帝国の忌まわしくも悪しき歴史。少数民族であるアルメニア人の虐殺を、トルコを出自とするファティ・アキン監督が作ったことに大きな意味がある。ファティ・アキン監督は、本作について「良心の探究をテーマにしている」と語り、『愛より強く』、『そして、私たちは愛に帰る』に続く「愛、死、悪に関する三部作」の最終章、<悪>として位置づけている。
「消えた声」とは、何も物言えぬままに虐殺されたアルメニア人の存在そのものである。少数民族のアルメニア人であるという理由だけで、家族は引き裂かれ、強制労働をさせられ、ナイフで喉を切り裂かれ、殺され、女性や子供たちも次々と餓死や病気で死んでいった。
映画はある家族の父親と双子の娘たちの物語である。双子の娘を学校に迎えに行った鍛冶職人の父親。その帰り道、3人は空を飛ぶ鶴を見る。「あの鳥を見たものは、長い長い旅をする」。そう言われているのだと父は娘たちに語る。「3人で旅をするのかもしれないね」と楽しそうに語らう。そして、その夜、突然アルメニア人の男たちが、トルコ軍に連れ去られ、砂漠での強制労働が始まるのだ。哀しき運命の旅。バラバラにされる家族。女性や子供たちも砂漠に連れ去られ、次々と死んでいくのだ。トルコ軍がイギリス軍に敗北し、やっとアルメニア人も自由の身となる。愛する妻や親戚家族を失った男は、まだ双子の娘たちだけは生きているという情報を得る。そして、娘たちを探す男の旅が始まるのだ。レバノン、キューバ、フロリダ、そしてはるか北アメリカのノースダコタ。地球の裏側まで、船に乗って娘を探して旅をするのだが、なかなか会えない。各地で様々な困難が待ち受けている。そして、「消えたかすれた声で、その名を呼ぶ」せつないラストシーンがあるのだ・・・。
その娘がいる村に行く前、男は空を飛ぶ鳥たちの群れを見る。あの鶴を3人で見たときのように。
なぜ、少数民族は移動をさせられるのか。移民、難民の哀しき歴史。貧しく、迫害され、平和に暮らせない人々は、国境を越え、安住の地を求めて、旅をするしかない。この映画は、そんな民族の哀しみの旅を、ある男と娘の運命を通じて描いている。愛しき妻が寝る前に唄っていたアルメニア人の歌がまたせつない。
「愛より強く」レビュー
「そして、私たちは愛に帰る」レビュー
「ソウル・キッチン」レビュー
原題:The Cut
製作年:2014年
製作国:ドイツ・フランス・イタリア・ロシア・ポーランド・カナダ・トルコ・ヨルダン合作
配給:ビターズ・エンド
上映時間:138分
監督:ファティ・アキン
製作:ファティ・アキン,カール・バウムガルトナー,ラインハルト・ブルンディヒ
脚本:ファティ・アキン,マーディク・マーティン
撮影:ライナー・クラウスマン
美術:アラン・スタルスキ
編集:アンドリュー・バード
音楽:アレクサンダー・ハッケ
キャスト:タハール・ラヒム、シモン・アブカリアン、マクラム・J・フーリ、モーリッツ・ブライブトロイ、トリーネ・ディアホルム、アルシネ・カンジアン
ケボルク・マリキャン
アキン・ガジ
☆☆☆☆4
(キ)
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