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「ロスト・ハイウェイ」デヴィット・リンチ

この「ロスト・ハイウェイ」あたりからデヴィット・リンチは難解さを増してくる。時系列的な物語を混乱させ、夢や幻想と現実を複雑に絡ませ、登場人物でさえ実在しているのかどうかわからない超現実的な描き方をするので、普通の物語として理解できない。人間の心は理解を超えた闇を孕んでおり、簡単に納得できるものではないというリンチの人間観がある。それでも、この独特のリンチ・ワールドに多くのファンを獲得しているのは、単に物語が難解なだけではなく、と性と暴力、そして夢や幻想と現実、光と闇の二重性を徹底して描くことで、多くの人の琴線に触れる何かが映像から感じられるからだろう。

この映画もまた奇妙な二つの物語から構成されている。前半は、フレッドというジャズ・ミュージシャン(ビル・プルマン)と妻レネエ(パトリシア・アークエット)の物語だ。フレッドは、妻の浮気を疑っているらしく、どこか病的だ。毎朝家の前に届けられるビデオテープには、寝室の二人の様子まで写されている。サスペンス的な展開で映画は始まる。そして、フレッドはパーティーで奇妙な白塗りの男(ロバート・ブレイク)と出会う。「前に会いましたね」「どこで?」「お宅でですよ」と言われ、「実際に今もあなたのお宅にいます」と電話を自宅にかけさせ、電話先に男が出る。この白塗りの目玉がぎょろんとした奇妙な男が映画の中で度々ミステリアスに登場し、映画を謎めかせる。フレッドの家のなかでは、闇がやたらと強調され、闇の中からフレッドが現れたり、闇を人物が出入りする。「ワイルド・アット・ハート」でも、ローラ・ダーンを闇から登場させたように、闇と炎はデヴィット・リンチの得意技である。この映画でも、謎の白塗り男が小さな小屋の前に立ち、その小屋が炎に包まれるシーンが逆回転で何度かイメージで使われる。時制が入れ替わっていることを暗示させる。

前半の物語は、フレッドが妻レネエを知らないうちに殺しており、フレッド自身も記憶にないまま逮捕され、死刑を宣告される。その拘置所の中で、フレッドが別の若い男・ピート(バルサザール・ゲティ)に入れ替わっているのがまた理解不能だ。警察官たちも不思議がり、フレッドの消失はそのままに、ピートをなぜか釈放し家に帰す。それからピートの物語が始まる。ピートも記憶を失くしたまま、自動車整備工として仕事に復帰し、エディ(ロバート・ロジア)というヤクザの親分と関わり合う。このエディの狂気ぶりが、車をあおられて怒りまくるカーチェイスで描かれる。エディの人、金髪美人のアリスがピートの前に現れ、ピートは一瞬のうちに恋に落ちる。そのシーンにはラブソングがかかるのもリンチらしい。このアリスが、フレッドの妻レネエと同じパトリシア・アークエットだと映画後半まで気づかなかった。エディと一緒に写っている瓜二つの女が並んでいる写真をフレッドが見つける。レネエとアリス、黒髪とブロンドの違い。一方は妻で、アリスはヤクザの人であり、娼婦であり、ポルノにも出演させられている女。そのアリスに夢中になるピートは、二人で逃げるため金を奪い、男を殺す。

炎で燃える小屋で再び白塗りの男と出会ったとき、ピートは裸のままフレッドに戻っており、妻のレネエがやくざのエディと浮気している現場を「ロスト・ハイウェイ・ホテル」の部屋で見て、エディを殺す。映像では白塗りの男が殺すのだが、すぐに消えていて、フレッドだけになっている。ラストは、フレッドが自宅に戻り、オープニング、自宅でフレッドがインターフォンから聞いた声「ディック・ロラントは死んだ」を、今度は自分自身がインターフォンに向かって語り、警察に追われて車で逃げる。まぁ、こんな話だ。ディック・ロラン=エディというのもわかりずらい。

まず、白塗りの謎の男は、どうやら存在しない闇の住人のようだ。フレッドの混乱した脳内、妻を疑う闇の人格のようだ。さらに、拘置所の中でフレッドと入れ替わるピートという若者も実在しているのかどうか疑わしい。妻のレネエは金髪の娼婦になっており、妻の浮気を疑うフレッドの別人格とも考えられる。つまり後半の物語そっくりフレッドの妄想ということなのかもしれない。エディというヤクザな男と性的に遊びふけっていたのが事実かどうかさえもよくわからないが、金髪のアリスのようなイメージが、フレッドの脳内で映像として作られていたともいえる。レネエとアリス、二人並んでいた写真は、警察が見つけた時にはレネエ一人になっている。アリスもまたレネエの性的別人格のフレッドのイメージ。後半の物語でまわりの登場人物たちが実在しているかのように描かれているので、幻想場面だとわかりにくく、観客はただただ混乱する。二人の人物の別々の物語だと信じる。ただミステリアスな白塗りの男を登場させて、現実と夢・幻想を架橋する。

この解釈も本当かどうかわからないが、デヴィット・リンチはこのように観客を混乱させる。多重人格、人格乖離、夢と幻想、混乱。人間が闇を抱えた存在である以上、どこまでが現実でどこまで幻想かわからない。その境界を行きつ戻りつ、と性と暴力と欲望を描き続ける映像作家だということだ。デヴィット・リンチの描く女性は、いつも妖しく性的で不安定で魅惑的だ。この二役を演じたパトリシア・アークエットの存在感も光る。

1997年製作/135分/アメリカ
原題:Lost Highway
配給:松竹富士
監督:デビッド・リンチ
製作:ディーパック・ネイヤー トム・スタンバーグ メアリー・スウィーニー
撮影:ピーター・デミング
音楽:アンジェロ・バダラメンティ
キャスト:ビル・プルマン、パトリシア・アークエット、バルサザール・ゲティ、ロバート・ロジア、ロバート・ブレイク、マイケル・マッシー、ジョバンニ・リビシ、ゲイリー・ビューシイ、ジャック・ナンス、スコット・コフィ、ヘンリー・ロリンズ、リチャード・プライアー
☆☆☆☆☆5
(ロ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : サスペンス 暴力 幻想 アート ミステリー ☆☆☆☆☆5

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ヒデヨシ

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              2013年映画ベスト5
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            1、「愛、アムール」
            2、「ホーリー・モーターズ」
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            ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

            <日本映画>
            1、「共喰い」
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            3、「恋の渦」
            4、「リアル 完全なる首長竜の日」
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            2012年映画ベスト10
          <洋画>
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          5、「きっと ここが帰る場所」
          6、「ドライヴ」
          7、「風にそよぐ草」
          8、「恋のロンドン狂騒曲」
          9、「おとなのけんか」
          10、「別離」
          次点 「裏切りのサーカス」
        番外
          「永遠の僕たち」
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        番外 「ヒミズ」


      2011年映画ベスト10
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      9,「エリックを探して」
      10,「シリアスマン」
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    2,「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」
    3,「あぜ道のダンディ」
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    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
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    10、シルビアのいる街で
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    3、川の底からこんにちは
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2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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