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「かくも長き不在」アンリ・コルピ

有名な作品だが、忘れてしまったのか、観た記憶があまりなかったので、観ました。マルグリット・デュラスが脚本を書いている。

記憶喪失ものというのは、昔からドラマや映画でいろいろと設定で使われるが、なぜか惹かれるものがあった。「自分とは何か」ということを失ってしまった男の物語は、誰もが抱える根源的な不安である。そもそも「自分とは何か」などわからないのに、病気によってすべてを忘れてしまう不安感は底知れない。それと同時に、まわりの人々の混乱もまたドラマになる。知っていたはずの身近な人が突然わからなくなる・・・という経験は誰にでもある。他者はいつだって理解不能なものである。分かっているつもりであっても、分からない面が突然現れる。自分だって、自分のことを分からないんだから、他者が分からないなんて当たり前のことだ。誰もが錯覚する。「自分とはこういう人間だ」、「あのひとはこういう人間だ」と決めつけて安心しようとする。分からないことがつねに不安だからだ。

この映画は戦争に行った夫が突然、記憶を失った男として自分の前に現れるカフェの女主人の物語。”古い教会のカフェ”の女主人、テレーズ(アリダ・ヴァリ)。バカンスを男友達と行く予定だったが、キャンセルして夫のアルベールとソックリな浮浪者風の男をあとをつける。セーヌ河畔でバラックで暮らす男。なぜか新聞や雑誌の切り抜きを趣味としている。なぜ彼が切り抜きに興味を持っているのか、それも分からない。男は最後まで、誰なのか分からないままだ。

テレーズは男を店に誘い、レコードを聴かせる。レコードのジュークボックスが映画の大事な仕掛けとなる。レコードが機械で選び取られ、回転して針が降りていき、音楽が流れ出す。夫が好きだった「セビリアの理髪師」のアリア。その音楽に聴き入る男。さらに親戚を呼び寄せ、彼の姿を確認させ、夫のことを大声で語り、彼に思い出させようとする。そして食事に誘い、再びジュークボックスでシャンソンを聴かせ、ダンスをする。映画のために作られた「三つの小さな楽譜」という曲らしい。歌手コラ・ヴォケールが歌っている。そのダンスで、テレーズは夫の後頭部の傷を触る。鏡でその後頭部の傷を見るのだ。ダンスをしながら、鏡が上手く使われており、戦争の傷跡が浮かび上がる。ナチスの収容所でつけられた傷か。夫はただ、「あなたは優しい人だ」とだけつぶやく。

最後に店を出て、近所の人々が彼の名前を一斉に呼ぶ。テレーズも「アルベール」と夫の名前を叫ぶ。それに対して、男は両手を挙げる。ホールドアップの姿勢だ。銃で狙われているような戦争の記憶。そして突然走り出す男。男に迫るトラックのライト・・・。戦争の重く暗い影が二人を引き裂く。アリダ・ヴァリの強い眼差しが、夫へのを浮かび上がらせるが、その思いは決して届かない。映画は、本当にその男が夫であったのかどうかを何も明らかにしない。

シンプルな映画であるが、人間存在の不安がそのまま描かれている。アリダ・ヴァリが彼のあとをつけるセーヌの河畔の風景がいい。

1960年製作/フランス
原題:Une aussi longue absence
配給:東和
監督:アンリ・コルピ
脚本:マルグリット・デュラス、ジェラール・ジャルロ
脚色:マルグリット・デュラス、 ジェラール・ジャルロ
台詞:マルグリット・デュラス 、ジェラール・ジャルロ
撮影:マルセル・ウェイス
音楽:ジョルジュ・ドルリュー
キャスト:アリダ・ヴァリ、ジョルジュ・ウィルソン、ジャック・アルダン、ディアナ・レプブリエ、カトリーヌ・フォントネー
☆☆☆☆☆5
(カ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 人生 戦争 ☆☆☆☆☆5

プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
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            <洋画>
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              2、「ホーリー・モーターズ」
              3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
              4、「いとしきエブリデイ」
              5、「ムーンライズ・キングダム」
              ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

              <日本映画>
              1、「共喰い」
              2、「さよなら渓谷」
              3、「恋の渦」
              4、「リアル 完全なる首長竜の日」
              5、「Playback」(2012年)


              2012年映画ベスト10
            <洋画>
            2、「少年と自転車」
            3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
            4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
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            6、「ドライヴ」
            7、「風にそよぐ草」
            8、「恋のロンドン狂騒曲」
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            次点 「裏切りのサーカス」
          番外
            「永遠の僕たち」
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            「家族の庭」

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          3、「演劇1&2」
          4、「夢売るふたり」
          5、「アウトレイジビヨンド」
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        2011年映画ベスト10
        2,「愛の勝利を」
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        4,「愛する人」
        5,「クリスマス・ストーリー」
        6,「トゥルー・グリット」
        7,「SOMEWHERE」
        8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
        9,「エリックを探して」
        10,「シリアスマン」
        次点,「エッセンシャル・キリング」

      2,「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」
      3,「あぜ道のダンディ」
      4,「マイ・バック・ページ」
      5,「冷たい熱帯魚」

      2010年映画ベスト10
    2、オーケストラ!
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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