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「生きちゃった」石井裕也

『川の底からこんにちは』を始初めて観て以来、注目し続けて観ている石井裕也監督作品。『あぜ道のダンディ』『舟を編む』『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『町田くんの世界』など秀作を発表し続けている石井監督の原点回帰のような作品だと言うので、気になって観に行った。わずか3日で一気に書き上げたという自身のオリジナル脚本で、まるで自主映画のように夢中になって撮影したと言う。

上海国際映画祭にて「B2B(Back to Basics)A Love Supreme」=「原点回帰、至上の」という新しいプロジェクト。香港国際映画祭(HKIFFS)と中国のHeaven Picturesが共同出資し、各映画製作者に同じ予算が割り当てられ、「至上の」をテーマに映画製作の「原点回帰」を探求するというコンセプトのもと、アジアの名だたる監督たちが各々映画作りを行う台湾の名匠ツァイ・ミンリャン監督(『情萬歳』『河』『西瓜』『楽日』)、韓国系中国人のチャン・リュル監督(『キムチを売る女』)、中国のヤン・ジン監督『ホメられないかも』)、マレーシアのタン・チュイムイ監督(『Love Conquers All』)、香港のフィリップ・ユン監督(『九龍猟奇殺人事件』)、そして日本の石井裕也監督。

商業的な制約もなく自由に撮った作品なだけに、むき出しの魂がぶつかり合うような重く切なく哀しい作品。なぜ人はこれほどまでに不器用なのか。オープニングの2人の男子学生と1人のセーラー服の女の子が、アイスを分け合って歩く後ろ姿だけでなんだかせつなくなる。女の子が一人の男の子の肩に手をかける。そこに3人の微妙な関係が浮かび上がる。誰もが経験したかのような、かけがえのない美しき時間。そして時間が経過し、電車が走る夜のガード下。男(仲野太賀)は無表情のまま、路面標示の字の上を辿って歩く。石井裕也監督は『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』でもそうだったが、夜のせつない時間を切り取るのが上手い。なんだか人生を持て余しているような、行き詰っているような空気感をうまく演出している。仲野太賀の無表情さがこの映画のトーンを作っている。

主人公の仲野太賀は、自分の本当の気持ちを言葉にできない。「日本人だからかな」というつぶやきが何度か繰り返されるが、そういう問題ではないだろうと思う。この生活から抜け出そうと、親友の若葉竜也と外国語を習って起業しようと思っている。「英語なら、本当のことがすんなりと言えるのにな」、「妻と娘のために庭付きの家を持ちたい」と夢を英語で語る。そんな思いを持ちながらも、伝えられないことが積もり積もって、関係は壊れていく。

セーラー服姿だった女の子(大島優子)は、仲野太賀と結婚したが、彼女はもう一人の若葉竜也の方が好きだったことが後からわかってくる。定番のうまくいかない男女のトライアングル。仲野太賀は、婚約していた女性との関係を断ち切ってまで、大島優子を選び結婚した。しかし、結婚して5年、二人の間に女の子が生まれたが、関係はうまくいっていなかった。自分の情をうまく表現できない仲野太賀に妻の大島優子は不満を抱え、ひたすら我慢していた。そして、別の男とセックスをするようになっていた。その場面を夫に目撃され、、二人は別れる。別れ話の場面でも無表情な仲野太賀。大島優子もとてもいい。新しい男(毎熊克哉)とも行き詰りつつ、元夫の仲野太賀にお金の振り込みを頼む電話の場面など、なんともやるせない。仲野太賀の実家の雰囲気もまたいびつで、嶋田久作、伊佐山ひろ子、パク・ジョンボムの演技が、その病的な感じをうまく表現している。二人が別れた後の展開は、かなり重い衝撃の事件が次々と起き、彼らの人生の歯車が狂っていくのだ。

言葉にできない想いは誰にでもある。その想いが伝わらないことで、こんなにも取り返しのつかないことになるなんて、人生はあまりにも理不尽だ。かけがえのない大切なものを失ってから、そのかけがえのなさに気づく。言葉にすることの大切さ、伝えることを諦めてはいけない。そんな思いがこの映画には溢れている。だからこそ、娘を迎えに行くラストの仲野太賀の叫びはせつない。娘との手を使った犬の影絵の場面が効果的。秀作だ。


2020年製作/91分/R15+/日本
配給:フィルムランド
監督・脚本・プロデューサー:石井裕也
共同プロデューサー:永井拓郎 北島直明
撮影:加藤哲宏
照明:上嶋ゆきお
美術:高橋努
音楽:河野丈洋
キャスト:仲野太賀、大島優子、若葉竜也、パク・ジョンボム、毎熊克哉、北村有起哉、原日出子、鶴見辰吾、伊佐山ひろ子、嶋田久作
☆☆☆☆4
(イ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 家族 ☆☆☆☆4

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ヒデヨシ

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            <日本映画>
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              Sventh Code
              私の男


                2013年映画ベスト5
            <洋画>
              1、「愛、アムール」
              2、「ホーリー・モーターズ」
              3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
              4、「いとしきエブリデイ」
              5、「ムーンライズ・キングダム」
              ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

              <日本映画>
              1、「共喰い」
              2、「さよなら渓谷」
              3、「恋の渦」
              4、「リアル 完全なる首長竜の日」
              5、「Playback」(2012年)


              2012年映画ベスト10
            <洋画>
            2、「少年と自転車」
            3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
            4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
            5、「きっと ここが帰る場所」
            6、「ドライヴ」
            7、「風にそよぐ草」
            8、「恋のロンドン狂騒曲」
            9、「おとなのけんか」
            10、「別離」
            次点 「裏切りのサーカス」
          番外
            「永遠の僕たち」
            「J・エドガー」
            「家族の庭」

          2、「かぞくのくに」
          3、「演劇1&2」
          4、「夢売るふたり」
          5、「アウトレイジビヨンド」
          番外 「ヒミズ」


        2011年映画ベスト10
        2,「愛の勝利を」
        3,「ブルーバレンタイン」
        4,「愛する人」
        5,「クリスマス・ストーリー」
        6,「トゥルー・グリット」
        7,「SOMEWHERE」
        8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
        9,「エリックを探して」
        10,「シリアスマン」
        次点,「エッセンシャル・キリング」

      2,「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」
      3,「あぜ道のダンディ」
      4,「マイ・バック・ページ」
      5,「冷たい熱帯魚」

      2010年映画ベスト10
    2、オーケストラ!
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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