「苦役列車」山下敦弘監督
さすが山下敦弘監督だ。自意識過剰で中卒のコンプレックスの塊で、嫉妬と妬みと酒と風俗と暴力と糞とゲロにまみれた原作者の西村賢太の苦悩を、まっとうな青春映画として見事に映画化している。森山未來の好演もあって、この映画は爽やかでさえある。
昔から何度も描かれてきたクサいほどの陳腐な「海に入る」という青春の一場面を、見事に切ないほどの名場面にしている。それはまるでつげ義春の海で泳ぎがうまいところを女に見せる『海辺の叙景』のように感動的なのだ。自堕落で孤独な彼にとっては、夢のような奇跡の瞬間であり、青春とは無縁であった男の「絵に描いた青春そのもの」の戯れだからだ。
ラストの裸のランニングと砂浜からゴミ場への落下もまた意表を突いていて面白い。青春はどこまでも自意識過剰であり、性急であり、何事も思うようにいかない。そのままならなさが昭和の終わりの時代を背景に、懐かしいほどの無様さが愛を込めて描かれているのだ。
製作年:2012年
製作国:日本
配給:東映
上映時間:113分
監督:山下敦弘
原作:西村賢太
脚本:いまおかしんじ
音楽:SHINCO
挿入歌:マキタスポーツ
キャスト:森山未來、高良健吾、前田敦子、マキタスポーツ、田口トモロヲ
☆☆☆☆☆5
(ク)
スポンサーサイト